2019年3月の勉強会「環境立国を目指す中国の国家戦略」

3月の勉強会は、金哲洙理事のご紹介で、IGESの金振さんに「環境立国を目指す中国の国家戦略」と題してお話しいただきました。金哲洙理事による勉強会の内容まとめ記事を掲載します。

勉強会の内容
金振氏

勉強会は3月22日、東京都渋谷区で開いた。地球環境戦略研究機関(IGES)の気候変動とエネルギー領域研究マネージャーの金振氏が講師になって、「環境立国を目指す中国の国家戦略」について講演した。主な内容は、下記の通り。

▼中国習近平主席は2013年、国家のすべての権限を引き受け、中国夢(二つの百年目標)を掲げ、生態文明、人類運命共同体(一帯一路構想)の執政構想を打ち出した。これまでの執政者と違い、環境汚染(大気、水、土壌)と政治腐敗を共通の「敵」に引き立てたのが特徴だ。
そしてメディアを動かし、「生態文明」「環境立国」の重要性を訴えた。特に、PM2.5問題に焦点を当て、深刻さをアピールした。
報告によると、スモッグ天気の発生頻度が年々上昇し、成都では空が見えない天気の日が年間239日と全国一多く、最も少ない青島でさえも88日だった。また、大気汚染に関する様々な報告が話題を呼んだ。PM2.5の平均濃度レベルにおける全国平均早死人口は2013年、1万人中9人と、交通事故死亡率の10倍高いと言われた。

▼中国は13次5カ年(2016~2020年)計画に、具体的な目標を掲げた。
・省エネ目標:GDP当たりのエネルギー消費15%削減
・新エネ目標:非化石エネルギーを15%まで引き上げる
・CO2削減目標:GDPあたりCO2排出量を18%削減
・PM2.5目標:大気質基準以下都市の濃度削減率18%
・汚染物質送料削減目標:COD、アンモニア態窒素を10%削減、SO2、NOを15%削減

 北京や上海、広東省、新疆ウイグル自治区など19省の36主要都市を重点対策区域と指定し、地域ごとの石炭消費総量キャップ目標も策定した。

▼政策だけではなく、企業の参入も目立つ。
たとえば、アリパパ傘下のアリペイ(支付宝)が開発した低炭素ポイント・アプリ「螞蟻森林」。同アプリを使いウォーキングや地下鉄・公共バス利用など18種類の低炭素消費活動を行えば、ポイントが貯まる。一定のポイントが貯まるとバーチャル樹木を買うことができる。また、ポイントを消費してバーチャル樹木を育て、一定程度に育ったら、バーチャル樹木オーナーの場所指定に基づき、アリパパが本物の樹木をその場所に植える。樹木のオーナーは24時間、自分が指定した場所に植えた樹木の生長をモニターで確認できる。恋人同士で植えることもできる。
2016年のサービス開始から現在までに登録オーナーは3.5億人、累計植樹5552万株に達し、これは累計CO2削減量283万トンに相当する。

開催概要
◆日時
2019年3月22日(金)19:00-20:30
◆場所
GEOCセミナースペース(東京都渋谷区神宮前5-53-70 国連大学ビル1F)
◆演者
金 振 氏
◆演講演内容
・習近平国家主席が推し進める「生態文明」政策の背景
・環境立国を巡る国家戦略、社会システムの変革、組織改革、政策パッケージ
・環境立国戦略と「一帯一路」構想
◆演者プロフィール
(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動およびエネルギー領域、主任研究員。
2009年、京都大学大学院の法学博士を取得。
2009年~2012年、電力中央研究所の協力研究員。
2014年~2017年、科学技術振興機構のフェローを経て、2017年5月より現職。
研究分野は気候変動政策。とりわけ中国における低炭素・環境都市政策、省エネ政策、大気汚染対策のほか、北東アジア(中国、日本、韓国)における排出権取引政策。