2020年1月17日 立教大学ESD研究所公開講演会「脱プラ」はなぜ喫緊の課題なのか

立教大学ESD研究所所長 阿部治氏より開会あいさつ
マイクロプラスチック汚染問題の世界的研究者 高田秀重教授の調査発表
「脱プラをめぐる包装」について話題提供した石井理事長

今年も立教大学を会場に立教大学ESD研究所の「ESDによる地域創生」プロジェクトの一環で行われた公開講演会「脱プラスチック社会を目指して~持続可能な地域づくりと人材育成~」にオーディエンスとして参加した。ESDとは、環境教育から発展した「持続可能な社会の担い手を育てる学び」。同研究所は、「国連ESDの10年」が始まった2年後の2007年に設立された。
「脱プラ」や「脱炭素」に業界や生活者の関心が高まるなか、企業、市民は何をすべきか、地域ESDの現場ができることは何か。約200人が参加した本講演会をレポートする。

公開講演会レポ―ト

マイクロプラスチック汚染の脅威と「脱プラ」幻想

マイクロプラスチック汚染問題の世界的研究者 高田秀重教授の調査発表

基調講演では、プラスチック問題の第一人者で、世界のマイクロプラスチックをモニタリングする東京農工大教授 高田秀重氏が科学的知見に基づいた国内外で進む海洋プラスチック汚染を報告。プラスチックを摂食して死に至る海鳥や海洋生物は200種以上も存在し、生態系を隅々まで汚染する。高田氏の二枚貝や海鳥のヒナを用いた研究では有害汚染物質が生殖腺や脂肪、肝臓に溜まり、海洋生物を食べる間接的な曝露で、マイクロプラスチックの増加で人が食べることの寄与が増える悪影響を明らかにした。
石油産出量の8から10%のプラスチックの生産に使われその大半が焼却される現状。日本では国内でのプラごみ処理をどう変えていくかが問われている。野心的な国際社会の動きに対し、G7サミットで「海洋プラスチック憲章」に署名しないなど及び腰な日本。高田氏は、日本で対策が遅れる要因に「アジア諸国への廃プラ輸出」「焼却処理への依存」「リサイクル万能神話」の3つを挙げ、「脱プラ」に対する日本の「幻想」を強調した。

包装産業のプロフェッショナルが捉える「脱プラ」

「脱プラをめぐる包装」について話題提供した石井理事長

一般社団法人
日本食品放送協会理事長 石谷孝佑氏は日本の優れた包装技術や廃棄物回収・利用のシステムを切り口に発表。「食品ロス削減の観点ではプラスチック包装は重要な役割を果たし、食品のロングライフ化で輸出の場面などで貢献する」プラスチックのメリットについても紹介した。「脱プラ」しても代替素材としては紙が主流で、導入が進む生分解性プラスチックやバイオマスプラなども環境に散乱することは度外視され、コストの問題から、必ずしも排出ごみ対策や化石資源の削減に貢献するとは言えないとする。
石谷氏は 「コンビニだけでなく、どんな便利な場所でも包装が増え続ける現代社会で『プラスチック・フリー生活』は容易ではない」と「脱プラ」の難しさについても触れる一方で、ストローやレジ袋以外にも、生活の中に入っている減らせるプラスチック包装材があることを示した。また、企業に提案を募り「どのプラスチックをやめることが可能か」を競わせるというアイデアも披露した。

地域ESDの現場が学生と取り組む「脱プラ」

 「脱プラスチック」の副題に「持続可能な地域づくりと人材育成」と銘打たれた今年のシンポジウム。
パネル討論では、対馬市まちづくり推進部しまの力創生課係長 前田剛氏が、足もとの地域課題である海ごみの現状を報告。「海ごみの防波堤」として8割が海外から流れる海ごみでメディアの取材を受けることも多いという国境離島の対馬。前田氏は「対馬の海ごみの将来を非常に危惧している。そこで学生たちに訪問してもらい、海ごみ回収ボランティアやスタディツアーを実施しているが、確実に意識変化が起きている」と話し、阿部氏が持つゼミ学生との実践も紹介した。
立教大学社会学部・同研究科教授でもある阿部所長は「これまでのシンポジウムで、こんなに若い世代が集まったことは今までになかった。『SDGsネイティブ』とも言われる将来世代は、すぐにSDGsを自分事化できてしまう」と述べ、教育とは学校の中だけでなく、日常的な人との関わりの中で生まれてくるものであることを強調した。
JFEJからは副会長の堅達京子・NHKエンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサーが登壇。発表で新著『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』の内容にも触れ「ウミガメやクジラのショッキングな映像はもちろんのこと、温暖化の進行など地球の『非常事態』が目に見えてきた今、それらとプラスチック問題は関係しているということを念頭においてほしい。だからこそ、ボイヤン君、グレタさんらがチャレンジするような『常識を超えるパラダイムシフト』が必要になり、世界のビジネスは急速に動き始めている」と解説。さらに「温暖化の進行など地球の非常事態と、プラスチック問題は関係していることを知ってほしい」と呼びかけた。
最後に、Fridays for Futureに参加する立教大生からの発言もあった。司会を務めたJFEJ会長の石井徹・朝日新聞編集委員は「メディアを含め様々なステークホルダーが現場を知り、垣根を越えて議論することが必要」と総括した。